ブルーライトの青光りに監督生の湿り気を帯びた四肢が照らしだされていた、或いは彼女の体の中心線のちょうど真下にできた水溜りもまた、青光りに照らしだされている。
 イグニハイドの寮室の扉は開閉時にがちゃりなどといった音を鳴らさない、ゆえにそのがちゃりとした音が響いたのは監督生の両手首を拘束するそこからであった。吊るされた監督生の、そこからであった。けれども監督生はぶらりとも揺れることがない、なんせその両の脚は開かれている形で固定されているものだから。
 けれどもぶるりと震える、がちゃりと拘束具を鳴らした要因もその通りである。与え続けられる無機質な振動に汗を浮かせては垂れ流す監督生の背中に冷や汗のものも混じった。一糸纏わぬどころか赤裸々な痴態を現在進行形で晒すことになっている為に、それは寮室に戻ってきたオルトへと。
「あっ、監督生さん、兄さんからのお仕置き中なんだね」
 その視線から逃れられぬとしても身動ぐようにした彼女の羞恥の心を認知しているのかしていないのか、どちらにせよオルトは彼女のうちからあふれ垂れできた水溜りや体に浮く汗、渇くいとまもない涙の流れた頬を確認しては、監督生の置かれている状況を正しく言い表した。
 吊られた監督生の身体の周りをぐるりとまわるようにして観察したオルトに、うまれた対流で些細な風が彼女の肌をくすぐった。嬌声は響かない、彼女の口元には今はなんらかの布地があるからだ。
 それは、猿轡であった。
 もしかしたら年相応の悪戯っぽさを以って、オルトはファイバースコープのほんの先が触れるか触れないかで監督生の体をなぞった。そうだ、オルトはプレシジョン・ギアである姿を彼女の眼差しの先にしていた。何かを訴える彼女の眼は今現在は窺えないオルトの眼に向いていた、ゔぅ……というくぐもった音が布地の向こう側から小さく響くようだ。
「なんだろう? おかえりなさい、かな?」
 監督生の唾液を吸った布地がわずかにぐじゅりとオルトの指に。そのようなことは気にすることでもないらしく、猿轡となっているそれに指先を引っ掛けたオルトはそうして布地を引き下げた。猿轡となっていたそれはスカーフのようにも監督生の首へとおちる。
 微かに嘔吐くような反射を見せたものの、監督生の口から零れたのは彼女自身の唾液であり、今更のように下唇を濡らし顎先へと滴っていた。それはぽったりと、体液の水溜りへと混じった。
「ただいま、監督生さん!」
 彼女の下唇を指の腹で拭うようにしながら快活な音声をオルトは聞かせたが、監督生の瞳が抱くものは彼の抱く感情と同等ではない。
 オルトが監督生の唇に触れた動作は先の言葉の復唱を求める為であったこともあって、彼女の上唇と下唇はゆるりと微かな隙間をあけた。気怠げにもみえるその所作は偏に今の彼女の体力の消耗の度合いだ。果たして、イデアのお仕置きは少し前に始まったものではなかったのだろう。
「……、けて……」
 平時より掠れた声は始めが聞き取りづらい。けれども、オルトには監督生のその求めが把握できたようだ。
「うーん……そのリクエストを承認していいか兄さんに聞いてみないと、助けられないや」
 指先を自身の口元へ寄せてそう言うオルトに、監督生のまなこの中では解放への期待が束の間に消え失せ、さらなる焦燥が湧いていた。
「ったすけ、たすけてオルトくん……!」
「ダメだよ、兄さんがダメって言うかも」
「たえられなっ……!」
「……そんなに苦しいの?」
 オルトの問いかけに監督生はこくこくと頷いた、汗の露が弾かれるようにして飛ぶ。プレシジョン・ギアの装甲を些細に濡らした、その体液が滲むことはないが。
 とある定義が監督生とオルトとの間で若干ずれが生じていたとしても、互いに気づかない。
「『イデア・シュラウドにメッセージを送信しました』……返事はすぐにこないと思うんだけど、兄さんに聞いてみたよ?」
 褒めて褒めて! とばかりに距離を詰めたオルトのボディが裸体である彼女へと微かな衝撃を伴ってぶつかる。小さな悲鳴じみた嬌声が人間には白くみえるその塗装の上を滑った。すべり落ちた先、体液の水溜りに波紋などえがきやしないが。
「そうだっ、検査してみようよ監督生さん! 耐えられないんでしょう? 許容数値のデータを取っとかないと! えっと……、そう、からだにきいてみなくちゃ!」
 監督生の肋のあたりに手を添えながらオルトは無い距離をさらに詰め寄った、その覆われて窺うことのできない眼球部は困惑を浮かべる彼女の眼を覗き込んでいたのかもしれない。
「はーい、お口をおおきく開けてくださぁい」
 もしかしたら監督生が自発的に口を開くことを最初っから望んでいたものではなかったのかも。言葉と共に彼女の口辺にかけられたオルトの親指は殆ど捻じ込むというものに近く、そうして監督生にしてみれば嫌な予感しかないというのに唇を引き結ぶことさえ敵わなかった。
 オルトは小首を傾げる、それに監督生はおずおずと口を大きくはなくとも覗き込むには充分なほどには開いた。捻じ込まれたオルトの指がぴくりと動いて頬の内側の粘膜に圧をかけたような気がしたからだ。
 ブルーライトの灯りで薄暗いがなんら問題が無い。システムさえ作動させれば光の一筋さえ潜り込まない闇の中でだってオルトには視認が可能だ、けれども今回はそのシステムを作動させる必要もなかった。ファイバースコープに搭載されたライト機能が監督生の口腔内を照らしだしオルトの眼差しの先に粘膜の色やてらりとした艶光りを晒している。
「んぅっ!」
 監督生が驚き舌を跳ねさせたのはオルトがもう片方の手、その指先を徐に口腔に差し入れあまつさえその指の腹が舌の中央あたりを撫で押したからだ。びくりと震えた彼女の身体、非難めいての眼差しをはたしてオルトがどのように捉えたかは定かではない。
「体温測定だよ! うん、やっぱり、正常値より高いみたい」
 舌を撫で押した手も捻じ込んでいた手も口から遠ざけたオルトに彼女が安堵することはない、彼の指を濡らしている自身の唾液に言い表すことの難しい感情が心臓に纏わりつきその鼓動を速めているようであった。
「ひっ」
 怯えのような声が零れた、オルトがするりと触れたのは彼女の乳房であった。
「うーん、脈拍数も上昇してるね! ふふ、心臓、どきどきしてる」
 監督生が見下ろす先でオルトはまじまじと観察しているようであった。彼女の乳房、その肌にはうっすら手の形が浮かび上がっている。それは誰かが無遠慮に力強く揉みしだいた為にできた痕のようだ、そうして勿論その誰かというのはイデア以外であるはずがなかった。
「ぁッ」
「兄さんの手、おっきいなぁ……見て、僕よりこんなに大きいんだよ」
 その痕、兄の手と自身の手の大きさを比べるようにしたオルトのそれは彼女にしてみれば彼に乳房を掴まれているに他ならず、震える呼吸を零しながら羞恥に眼差しを伏せるしかなかった。
 監督生の頬を微かにオルトの燃ゆる蒼い炎が掠めたようだ、熱傷に繋がることはないがそのちろりとした炎のゆらめきのさわりは確かに彼女にも知れることができ、それで彼女はオルトが自身へと顔を近づけたことを察した。それに思わず伏せた眼を開けたのも自然な流れであった。
 オルトの小さな唇は監督生の唇へと被さるように或いは覆い尽くすように何度か喰らうような動作をみせた。それは兄、イデアが彼女の唇を喰らう時の所作を模倣しているようなものだった。
 それに思うものがあったのかどうなのかは分からないが彼女は少し唇を開く。オルトは、その唇の内側をちろりと舌先で舐めたようだった。
 正直、監督生はオルトに舌を攻められる或いは舌で攻め立てられるのではないかと思っていたのだが、ちろりと舐めたそれを最後にオルトの舌はもちろん唇は彼女から離れたようであった。
「プレシジョン・ギアは液体の成分解析もできるんだ!……でもこれは僕が監督生さんとキスしたかっただけ」
 そうして口元でふふっとオルトは笑った。少しだけ悩ましげな吐息を零した監督生のことを気づいていたのかどうかは、やはり分からない。
「『受信感知』、兄さんからの返信だ! うんうん、『管理者のコマンドを把握しました』……待ってて監督生さん、監督生さんのリクエストを承認してあげるね? その為に換装しなきゃ!」
 消耗に思考能力が弱まっている監督生には、何故助けてくれる為にオルトが換装するのか疑問を浮かばせることもできなかったようであった。
 吊るされたままの監督生には換装するオルトを窺うことはできず、時折にがちゃりとした音に鼓膜を震わすことだけが享受だ。
 僅かな時間であった、オルトが換装に用いた時間は。
 ひょっこりという音が聞こえてきそうなさまで監督生の視界のなかへと戻ってきたオルトは自身の姿をよく見せるように両腕を広げ、自慢するように目元に笑みを浮かべていた。
 オルトのそのボディは、アーキタイプ・ギアに極めて似ていた。が、とある箇所においては圧倒的に異なっていた。
 監督生は目を見開くようにして驚愕し、そうして睫毛を震わせるようにして怯え始める。彼女のそんな様子に気付いていないようにオルトは彼女の拘束をひとつずつ、ひとつずつ、そうして全てを解いた。
 彼女の身体を苛んでいた玩具もかつりやらずるりやら床へと落ちたようだ。
 逃げ場などないとしても逃亡さえしようとした彼女は。けれどもつい先ほどまで苛まれていた身体が満足に動くはずもない。むしろ重力にさえ負けたように、床に崩れ落ちては四肢を微細に痙攣させているぐらいだ。
「びっくりしちゃった? でも前に言ったじゃない、僕も監督生さんを楽しませてあげられるように、兄さんが新しいアタッチメントを造ってくれるって。あれ? その時監督生さんは意識を失ってたんだっけ? うーん……データを取りだせば分かるけど、これ以上待たせちゃ可哀想かも!」
 抱擁するように監督生の体を起こしたオルトと項垂れるようにされるがままの彼女、互いの間には、笑む少年にはあまりに不釣り合いな猛りたつ物騒なモノが。彼女の重心を支えながらも互いの距離に空間を拵えたオルトは、その部分が彼女にもよく見えるようにした。幼い子供が特に自慢するようにも無邪気な声色を聞かせた。
「さわってみて! 本物みたいでしょ? いろいろパターン展開が在るんだけど、今回は実物に近いものにしてみたんだ。監督生さんが気に入ってくれるといいんだけど……」
 監督生の手を取ったオルトは重ねたその手を自身の両の大腿部の付け根の合間へと導いた。引き攣るような動きを見せながらも彼女の指先はそこに触れるしかない。
「ん、……ちょっと、くすぐったいかな」
「っ!」
 浮く血管、或いはそれを模した人工皮膚の下のケーブルが脈打つびくりとした感触に彼女は喉を痙攣らせた。くすぐったいやと笑む少年にはあまりにも、やはり、不釣り合いであった、彼女が触れさせられたモノは。
「えっと、兄さんはどうしてたっけ……モーションを近づけて……ん、……こう……」
 イデアが監督生の手を自身の手で覆い男性器を扱きあげるそれを模倣した動作は確かに似ている、が、形ばかりのそれは彼女もその擬似機関を強く握り込んでいるわけでもない為に低い数値しかオルトに与えていないようであった。
 それでも、眉を困ったようにほのかに寄せていたり、表情がやわくなっているオルトを知り監督生は独り言めいて言葉を零したようであった。
「きもち、いいの……?」
「うん、監督生さんの手、きもちいいよ」
 するりと指の腹で彼女の手の甲を撫でてオルトはそう言う。世界の空気は純粋無垢なものであるように錯覚するが、寮室にただよう空気というのはあまりにも湿り気を帯びている。
「でも、だって、……わかるの?」
「触覚センサー、オフにしてないもん。それに感度っていうのはシグナルなんだよ、分かるかな? 微細な電気信号だから、ヒトだって僕だって……回路さえ造っちゃえば同じなんだ、わかるよ」
 ふふっと笑ってから、オルトはぴくりと片眉を上げた。本当に分かるのかと確認するように監督生が少しだけ力を込めたからだ、その手に。
 アタッチメントの先端に透明の滴がぷくりと溜まり、許容数値を超えたというようにつつぅと滴った。その先で彼女の指先に辿りつき、肌をわずかに濡らす。
「これは擬似精液で、回路にある一定のシグナルが奔ったら放出されるようにシステムが組まれてるんだ。人体に無害で粘膜に吸収されたとしても問題ない構成だから安心してね! すごいでしょ? 考えたのも造ったの兄さんだよもちろん! やっぱり、僕の兄さんは誰よりもすごいんだ!」
 曰く擬似精液、それがアタッチメントの外表部に塗り込まれるように監督生の手は上下に滑った、重ねられているオルトの手がそうしているものだが。
 自身の手の平の内側に感じる些細なびくつきに監督生の唇から短い感覚の空気が漏れる。呼吸の速まりや湿度、下腹部のその皮膚の下、とある臓器では疼きすらあった。
 それでも、オルトがもう片方の手で極めて少しずつだが圧をかけてきて、遂には背中を床へと横たわせてしまったことに気付いた時、遅すぎるばかりだが彼女は焦った。
 監督生の両腿をわりひらき自身のボディをその合間に、距離も詰めたオルトは眼差しを寄せる。絡んだ眼差し、オルトの眼の中に駆けた光は碧色。回路に奔ったなんらかのシグナル、コード。光の色は異なるものであったが、眼差しは兄、イデアのものとよく似ていた。ゆえに監督生はびくりと震えさせた、それは半ば怯えではなくのちの期待の。
「じゃあ、挿入するね?」
「ッッ!」
 アタッチメントが一度監督生の股をずるりと滑った。それは今から挿れるという宣告のものであったが、なかに玩具を長い時間埋めて焦らされていた彼女にしてみれば息を詰めるに充分な刺激であった。
 すぐ後に与えられるであろう衝撃に堪えようとするように、ぎゅっと閉ざされる監督生の瞼、オルトのボディへとしがみつく脚。
 アタッチメント、ヒトの男性器の造形をしたそれがじゅくりとひと突きに彼女のなかに埋まった。
 その刹那、呼吸をするものはその空間に存在しなかった。
「『――――』」
 瞬間に目を見開いた彼女は自身の眼差しの中にまるで電流が駆けたようにも感じたし、或いは彼女を覗き込んでいたオルトの眼球部には碧色の発光する極小の球体の幾つかが奔ったことが確かだ。オルトは可動部の節が軋むような多少の鈍い音さえも発生させた。
 ようやく待ち望んでいたものを咥えることができた監督生のなかはその一回の穿ちだけで絶頂を迎え、きゅぅきゅぅと酷く収縮を繰り返していた。
 ぬるい温度、ひろがる、或いは注がれる液体はついさきほど説明を受けた――。それは限りなく吐精に近いものだった、あるいはそうだ。
「っぁ、……ぅ……」
 小さく声の音を零しながら、監督生は思考能力をわずかに手繰り寄せたらしかった。
「ぉ、ると…くん……?」
 眼球部の明度が落ちたオルトを見仰ぎながらの彼女のその呼びかけに、彼は返事をしない。
「オルトく、」
「わぁっ! 予想値よりシグナルが奔って、僕、フリーズしちゃってたかも……! ぅうん、ショート動作に近いかも。ポーズも固まってよかった……監督生さんを圧死させちゃうとこだったや」
 言葉を遮るようにして音声を発したオルト、その目の彩度も正常なものへと戻っていた。それに少し安堵はしたものの、『圧死』という単語を把握した彼女は困惑の色を目に浮かせる。
「僕のボディ、監督生さんが思っているより遥かに重量があるんだよ? だから、うん、気をつけなくちゃ。……『計測した数値を元にコードの再構築を開始します、3、2、1、完了しました』……よし、これでだいじょーぶ!」
 手を口元に添わせてオルトは笑ったが、彼はすぐに肩を落とすようにした。
「あっ、僕、射精しちゃったんだ……監督生さんをいっぱいよろこばせたかったのに……」
 しょんぼりとしたその様子がちょっと可愛く見えて、監督生は励まそうとするように唇を開きかけた。やはり彼女は正常ではない、彼女自身の中に埋まるそれの勃起状態に変化はないというのにまるで気づいていない。或いはそのアタッチメントの通常形態がそれなのかもしれないが。
「『保有擬似精液の残量確認』……うん、だいじょうぶ! 僕、まだ監督生さんを楽しませられるから!」
 にっこりと笑んだオルトに、息を呑んだ監督生の喉から歪な音が鳴った。制止を求めるものにすら成り得なかった。
「ひっ、ぅ……! やっ、やめっ……!」
 幾分前にはひと息に埋められたそれがその性急さも忘れたようにゆっくり抜かれていくのに彼女は鳴いた。それが全てを抜きだすための動作ではなく、再び自身を突き上げるための動作だと分かりきっているからであった。
「い゛っ! ぅう……!」
 ばちんとぶつかる、オルトのボディと監督生の身体。擬似精液と監督生の体液の混じった液体が結合部から追いだされるようにあふれ弾けた。飛び散るそれが寮室の床はもちろんオルトの装甲や彼女の肌を汚した。付着物はブルーライトに照らされ、てらりと光っていた。
 反った監督生の背、床から浮いたそれを元に戻すかのように或いはそれもまたイデアが行っていた動作を倣うように、オルトは彼女の下腹部を手の平全体で押し圧をかけた。
「やだやだッ! そこッ、押さないで……!」
「えっ、此所?」
 その確かな位置を把握したいというようにオルトの指の腹がぐりぃと彼女の下腹部の肌に沈む、未だにオルトの胴体に絡んでいた彼女の脚がここで反射、解かれた。彼女の爪先がびくんっと大きく跳ねる。咄嗟に両手で自身の口を覆った彼女の喉は締まり、眼球部から追いやられた涙が肌を伝い髪間へと消えていった。
「すごく脈打ってるみたい、まるで此所にも心臓があるみたいだね! もちろん、監督生さんの心臓はひとつだって知ってるけど」
 この下にあるのが監督生さんの心臓! とでも言うように左乳房にオルトは触れた。また、ずるりずるりと、もったいつけるようにアタッチメントはぎりぎりまで抜きだされる。
 唸るような監督生の声音がその彼女自身が覆う手によりくぐもっていた。それは好まないとするようにオルトはその手を取り、自身と指先を絡めて床へと押しつけた。とんっ、と軽く音がしたようだ。
 そうしてその音を追うように接着された結合部の勢いは決して生易しいものではなかった。
「あ゛ッッ!!」
 快楽から逃げるように監督生の足は蹴った、それでもその場は宙でしかない。
「ん、……監督生さん、すごく、僕をだきしめてるみたい……」
 ぴったりと密着したその結合部に眼差しを向けながらオルトは言った。そうしてその感覚がもっと欲しいというように、穿ったままに突きあげる。少しだけ監督生の背中が上滑りするようだ、その突きあげに。
「ぅう゛……!」
 その求める抱擁をさらに得ることができたから、だからこうしようとばかりにオルトは少しだけ腰を引いてはぐいぐいと突きあげることを始めたらしかった。
 知的好奇心が含まれたオルトのその行動を止めるように監督生の足は彼の胴体に絡んだが、傍目から見るにそれはオルトの行動を肯定するように助長しているようにしかみえないものであった。
「やっ! ぁッ、めっ……!」
「すごくぎゅぅぎゅぅしてる! そっか、監督生さん、『もうたえられない』んだね? くるしい?」
「くっ、るしい……!」
「うん、なら、たすけてあげるね?」
 助ける、にも数パターンが在るのだろう。オルトが選択した今回の助けるのそれは、やはりイデアが以前取った行動でありつまり、ぐいぃと突きあげながら彼は、つねった。オルトのアタッチメントを咥えるそのぬらぬらとした器官、すこし上部、ぷっくり膨れた、つまり、充血したその箇所を。
「ひッ?! ぐっ……!!」
 オルトの手がヒトのそれなら爪が皮膚に食い込み血を流させていたほどに、彼女はオルトと指先を絡めたままに手を握り込んだ。ぱきりと、些細な音を響かせながら彼女の爪が割れた。そうして結合部付近から飛び散った液体がオルトのボディを濡らした。
 達して潮をふいたさまを知りながらも律動を再開しようとしたオルトに、震え締まる喉でも彼女は声をあげた。
「やだっ! ほんとにっ……!もっ、……むりッ! むりだから、オルトくんっ……!」
「だいじょうぶだよ! これはエラー動作やバグじゃないってちゃんと学習したから、今の僕にはちゃんと分かるから。きもちいいんだよね? もっともっと、きもちよくなってほしいんだ。もっともっと、監督生さんが僕のことを好きになってくれればいいなぁ……」
 オルトの声色はどこまでもやわくやさしげなものだったが、その音がすべりおちた先のシーンというものがその通りであるということはなかった。イデアが、兄が監督生を抱く姿をずいぶんと観察していたオルトの彼女を揺さぶる動作というのは、今回初めて彼女をまさしく抱いているそれでもうぶさなど微かにもなかった。
 監督生のやわらかい肉に自身の硬質なボディをぶつけながら、損失に繋がることはないように出力調整はされているようであったが兎も角、ぶつけながら、密着その度に嬌声を跳ね上げる彼女の喉を観察していた。女性であるためにゆるやかな喉の骨の隆起が浮くように晒されている。
「監督生さん、好き?」
「ひぅっ!」
 ばちんっ、オルトの問いかけに答えようとしたのかも定かではない。
「好き?」
「ッあ! やっ!」
「ちゃんとこたえて!」
「ぁっアっ! やッ! 好きっ! すきだからぁッ……!」
「やった! 兄さんも僕も監督生さんのこと好きだよ、だぁい好き!」
 その喜びをあらわにするようにオルトは監督生の身体を抱きしめた、より密着するということはより奥にその擬似機関が埋まるということだった。
「ふふ、相思相愛っていうんだよね? 嬉しいな、いっぱいなかよくしようね。兄さんと監督生さんと僕とで、御伽話のヒトたちみたいにずっとずっとなかよく一緒に過ごすんだ! 楽しみだね? そうでしょ、監督生さん」
 今はマスクに覆われた口部を監督生の唇に押しつけた後、いいや、最中もたえずオルトは彼女を揺さぶっていた。
 びくびくと震えている、監督生の睫毛も四肢も粘膜も。
「イっちゃうッイッちゃぅう……!!」
「そうなんだ、じゃあ僕も擬似精液放出システムのタイミングをあわせるね?……ね、監督生さん、もっといっぱい好きになってくれた? 好き?」
「アッ! あっ! 好きっ! しゅきっ、アっ! やっ!! いッ! ッッ……!!」
 びくん。



「あっ! 兄さんおかえり!」
「ただいまオルト、それに監督生氏……は、あ〜これはこれは……」
「いっぱいデータ取れたよ! それに、監督生さんにいっぱい好きって言ってもらえたんだ……ふふ、この音声データ、とーっても大事にしなくちゃ!」
「録音はしっかり最初っからした?」
「もちろんだよ! 音声データを送っておいたから確認してね?」
 ブルーライトはやはり、兄弟と監督生を素知らぬ顔で青白く照らしだしているようであった。