燻り香る、熱の花
予期していなかった敵と応戦した、これは主の采配云々ではない。先までは遅れを一歩とて取らぬ敵刀であったのだ。時空の切れ目、稲光が煌いたかと思えばそれより舞い降りたのは時間遡行軍と見目は似ているが異なる存在であった。味方全振りが対するに構えを取った、そこまではよかった。いや、思えばよくはなかった。練度の違いがあったのだ、明らかに。
一振りとて討ち取れぬわけではなかった。されど気付けば戦場に身を持って構えを取っているのは壱としたものであったのだ、互い。それも僕の本性は敵刀により遠くに払われている、両腕と共に。
僕が構えを取っておらずとも関係など無し、当たり前だ。胴体を両断せんと薙ぐ大太刀を身を退けることで免れた。己が本性からもまた遠ざかってしまう。剣筋を見極めつつ、戦場へと視線を巡らせる。方法など、限られたものしかない。
「っ!」
脚に力、地を蹴った。半ばで折れた刀身。地に落つるそれ、重心低くそれでも伏せぬほどで駆け拾う。ただし自身に拾い上げる手は無い、口で咥え上げた。
儘に振り返り、敵刀、それの切っ先を首を傾げることで避けた。薄く頬を裂かれる感覚、避けきれていなかった、しかし余剰に意識を傾けるを許さず。刀身を強く咥え込み、距離を詰める。勢いに首を振れば、それは空いたその首を掻っ切ったことに他ならず。
斬り離してはおらず、皮一枚だ繋がっているのは。
「…………」
噴き出す血に濡れながら、息を吐けば刀身は血に落つる。帰城だ。
手入れ部屋にて座するは僕だけである、主はその瞳に涙の珠露を浮かべそれを頬へと零していた。皇かな肌をすべっていく雫に目が奪われてしまうのは焦がれ、僕の心内に気付かずにきみはこの体へと腕を回しただただ感謝を申していた。よく帰って来てくれたと。確か、無事にとは言えないが僕はきみの元へと帰って来ることができた。未だ張り詰めていた生命への緊張の糸は、緩んだ。けれども熱い。熱を持っていた、じくじくと疼く。
「痛いでしょう……?」
「大丈夫だ、気に病むことはない」
そうは言っても気にしないでいる方が無理な話だとは分かっていた。今の僕は両腕が無い状態だ、それなりに痛みだってあるし疼いている。しかし意識の他所にできぬこの疼きは手傷のそれでないとも知れている。心が急く、しかし斬り払われた腕を持ち帰ることが叶わなかった為に人の身の修復には時が随分とかかると主は言った。
正直、この熱の燻りを耐え切れる自信がなかった。思えば理性は霞んでいる、だから、本能のままに体が動くのを止めようもなかった。生死の窮地に立たされた命持つ者が抱くであろう本能だ、人の身のそれだ。
「っあるじ……!」
熱を孕んだ吐息を押し出すと共に音に主へと縋る。きみは僕の本性である歌仙兼定を手入れしようとこちらへと後背を向けていた。だから僕はその背中へとこの身縋ったのだ、押し倒したとも言える。
「?!」
その身は畳の上へと、僕と共に。体重をかけきってしまえばきみが辛いことだろうからと意識、触れ合っていることを思い忘れた。
驚き何事かと身動きを忘れた主の首筋は僕の鼻先にある。唇で辿り、確かと触れた。ちろりと出した舌先で触れ、全体で舐る。震えたきみにぞくぞくとした。歯を立てる、けれども甘噛み程度だ。血はでていない。この皮膚の下、管、流れる血潮に思いを馳せた。
少しばかり油断した僕に身を捩らせた主はこの体の下から抜け出してしまった。無作法だと知りつつも、着物へと噛みついた。仕方なし、今の僕にそれを掴む手はないのだから。僕の抑えにきみはつんのめりその体は再度伏せることだ。倒れる主、その装い、裾元が捲りあがり際どく見えている―正直、興奮した。足の爪先を引っ掛けるようにして布地をずり下ろす、再び逃げようとするのを知った。覆い被さり、制する。
きみの首元からは甘いにおいがする。いや首元だけではない、この肌から、きみ自身から。僕を誘ってやまない香りが鼻先を撫ぜて心までざらりと撫ぜていくのだ。
男の身、己の肉の棒が既に勃ち上がっているのは知れたことだ。
「っぁるじ……! ん、きみが欲しい……」
「ひっ、ぁ、……っや、ぁ……!」
きっときみの血は甘いことだろうと、恋うようにして肌を舐る。その合間にきみとて恋うていると求める言の葉を紡げば、きみは身を捩るようにして布地越しに僕を愛撫する。だから僕とてきみへと縋りつくようにして腰を揺らした。己が纏う装いが邪魔だ、しかし袴帯を解くための指先が無い。きみに頼もうと断られることが分かっている。仕方なし、けれども行為を止めるをしない。下穿き、袴が在ろうと儘に腰を揺らした。布地を隔てていようと、きみに触れていると知っている。心地好い。
熱を押しつけるように、擦りつける。腰を揺らせば雄は窮屈に布地に隔てられてしまう。けれども、もしかしたらそれすらも悦と成り得ているのかもしれない。先端がぐいぐいと布地に当たる、何枚かの隔たりの先はきみの肌だ。焦がれている、燻っている。堪らない。
「ん、あるじ……!」
「ぁ、やっ、やめて……! 歌仙、んっ、ぁ……!」
「無理だ、苦しいんだ……! っく、ぅ、ぁるじっ……!」
衣擦れの音が喧しい、それもそうだ僕が腰をきみに縋りつかせ激しく揺すっているのだから。この様、一片とて雅でない。分かってはいる、けれども霞んだ理性ではそのようなことどうでも良かった。
始まりより肉慾が充実しているのを感じている、痛みさえ覚えるほどだ。それは止める理由にはならぬ、もちろん。硬く屹立した雄のままに行為を止めることがどうしてできようか。僕の体の下、震えるきみ。びくびくとしたそれに同じように震える僕を押しつけた。
「んっ、……少し、噛み破りたくもなるな……」
「ひっ……! ぁ、やっ」
言葉の後に首筋に唇を寄せるときみは僕の言葉のそれから察して逃げようとする、それをするを許さないが。きみの血に唇を濡らすに惹かれるものを思えど、それは我慢した。反対に僕の血にきみの唇が濡れる様を脳裏に描いた。悪くない、けれどもそれをしてくれと訴えぬままに唇、肌を吸い上げる。淡い色の花が咲いた。この心のままに僕の唇は笑んでいる。
布地越し、尻の肉を突き上げた。そのまま、ぐっぐっと押しつけ、きみの羞恥の震えを感じる。きみのそれらを知りながらも僕に余裕は無くなっている、張りつめていた。
「っ、ぁ……果てるなら、きみの中で果てたいものだが……くっ!」
言い終えるに待たず、擦りつける。ごしごしと激しく。
「ぁっあっ歌仙っ……!」
「ぅ、あるじっ、っは、ぁ……!」
気持ちがよい、そうして苦しい。苦しく、そうして気持ちがよい。じくじくとした熱は腕の切り口、けれども腰のあたりの甘い焦がれ。きみの声に鼓膜を震わせながら肉慾に追い縋るこれがどんなに陶酔としたものかきみは知らないことだろう。思考がふらふらとあちらこちらへ行く、思いの行き先はただひとつきみとすれど。
「ぁ、ぐっ……! あるじっ、でるっ……!」
「ひっ、ぅ……! かせっ」
「あるじっ! ぁ、ぅ゛う゛っ……!!」
隔たりがあろうと、強く肉に押し込みままにぶるりと震えた。肉慾は爆ぜていた。
「っは、ぁあ…………」
布の下、吐き出したそれ不快である。また射精の後の気だるさが薄い膜のように僕の体を包んでいた。だけれど昂りは霞んでいなかった。だらりと主の後背に覆い被さったまま、再びを決める。
「ぁ、……」
薄ぼんやりとしていた僕に主はさっと身を逃がしてしまった。畳の上に伏せ転がってしまっている僕は見目に情けないかもしれない。熱に未だ腰のあたりに甘い焦がれを感じている。だから、零してしまった声はねだりの響きを孕んでいた。
僕の声の響きを知ってか知らずか、兎に角この身はきみの手によって起こされた。そうしてきみは、僕が僅かに疑問を覚える前にこの唇に噛みつくように口付けてくるのだ。驚き、それでもこの心は喜ぶ。きみの唇はやわい。ぬくもり、縋る。顔先の角度を変えながら互いに相手を求め乞う。
「んっ、……ぁ、……るじ……」
「かせ……、んっ、ん……っ」
腕が無いためにきみを支えることが叶わない、それでも舌先で唇をこじ開け、舌を絡めあう。吐息が僕の口内へと漏れてきて、小さな喘ぎさえ木霊する。ぴちゅぴちゅとした水音。ああ、この興奮する様は酷い。けれども欲情しているのは僕だけではない、きみの手が僕の袴のあたりを弄っているのだから。
しゅるりとした微かな音は互いの鼓膜を震わせた、震えた吐息に欲への期待。音を追うよう性急に、外気に晒された性器がびくりと震えた。自身がそうしたというに触れて、きみの指先は小跳ねする。それで僕を知ろうと手の平撫でる、いじらしい。腰を浮かせてその手へと押しつければ応えようと軽く握り込まれ、擦り上げ下ろされる。微かな笑み声をきみの唇へと寄り添わせ、下唇をちろりと舐めた。
「かせんっ……!」
潤み目、紅潮とした頬。全てを脱ぎ払っておらずとも、事をするに妨げにならず。畳に座する僕の脚を跨ぐきみの脚、雄は雌に埋まりたがっている。
予想以上にきみは欲情しているらしい。僕を手に支え己の性器に擦りつけるきみ、それがこの浅葱色の眼差しの先に在る。ちゅっちゅっと口付けられる度に痛いばかりの脈打ち、早くきみの中に埋まりたかった。しかしきみは生娘だ、その身にぼくを受け入れるはきついことだろう。その言の葉を紡ぐ前に、鈴口はぬぷりと飲み込まれた。括れを食まれて心地よくまた震えてしまう。
「っく……! ぁ、るじっ!」
「や、ぁっ、おおきぃ……!」
びくびくと震えきゅぅきゅぅと締めつけてくる、やはり苦しげ。
「儘に僕を埋めては、辛いだろう……?」
「ぁ……ん、歌仙で、いっぱい……ぁっ、……!」
「ぁあ、僕に腕があるなら中をほぐしてやるというに……。一度とてほぐしてないきみに僕を埋めては傷つきやしないだろうか……」
「……つらい、けど、ぁっ……! そのっ、自身を慰めたこと、あって……、っ」
「……ぇ?」
思わぬ告白、声を漏らす。されど言の葉はよりと続いた。
「あっ、ん……! かせっ、あなたを思って……やっ! ぁあっ! だめっ、突きあげちゃっ! やぁ……!」
「っ無理だ! きみが可愛い! あるじっ! 僕のあるじっ!」
腕がないことが惜しい、きみの腰を支えひたすらに行為に溺れたいと思う。僕の与える悦にきみの体が反射逃げてしまう、それを追うように突き上げる。雄は疾うに埋まりきっていた、きみを穿っていた。じゅぷじゅぷと抜き差しの音響かせ、ずんっと強く突き上げる。きみが震え、腕に僕へと縋りつく。きゅぅっと強く苛まれ僕とてきみの肌へと熱い吐息を零した。
ぼくのもどかしさを知ってかきみは、自身で腰を揺することもする。体制のために奥をなじる僕を感じ入りながら。不意打ち、最奥を打てばきみの嬌声が僕の耳を楽しませる。耳が心地よいことだ、お礼にとばかりにきみの耳たぶを食めば雄を締めつけられた。きみの胎に僕の子種を注ぎこむことへの欲に雄は昂るばかりだ。揺する。
「あっ、あ! っぅ、あ……! めっ、だめっ……! かしぇっ、かせんっ! いっちゃ、ぅ……!」
「ぁあ、気をやればいい……!」
小刻みに中を擦ってやればその悦は自身のためにもなる。
「っ、好きだ、きみが好きだ……! 僕で、満たしてやりたい……!」
「かせっ、わたしも、っや! ぁ! すきっ、ぁ! ん、ぅ……!」
求め、求められればもう抗えぬ。駄目だもう駄目だと鳴くきみを己の欲のままに強く突き上げその体を跳ねさせた。壁を抉るように膣を激しく行き来する僕にきみの嬌声が言の葉にならずに部屋に木霊する。僕は獣のような呼吸をはぁはぁと繰り返している、きみを揺らし続けながら。
「ぅ、くっ! ぼくを、ぼくをきみにやろうっ……!」
「ぁっ! っ、かせんっ、ちょぅだいっ、ぁ! んっ、んぅ……!!」
「っぐ、ぅうっ……!!」
僕の子種をねだるそれにもう耐え切れぬ。奥を突き上げながら、きみへと白濁とした欲を遠慮なく注ぎ込んだ。びゅくびゅくと吐くそれをきみが悦んでいるのを感じながら、射精の最中でさえ腰を揺らす。その胎に僕を受け入れればよい、孕んでしまえと。
残滓一滴まで、あますことなくきみの中へ。
「ひ、ぅ……っ、っっ、ぁ……」
絶頂の余韻に覚束なく喘ぎ続けるきみ。その瞳に僕を泳がせ笑んでみればこの意、伝わることだろうか。いいや、唇に紡いでやろう。さすれば熱はまたと昂り大輪の花と成り得る。
「あるじ……手入れはまだこの後で、よいだろう?」
きゅぅと食まれたそれが応じのようなものだ。
「きみを、満たしてやろう」
孕んでしまえばよいのだ、揺らせばぐちゅりと欲の水音が。
花はいつまでも狂い咲いていることだろう。