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多分、いや確実に、スタンドを解除したその瞬間私は彼に殺されるだろう。
ソファに座るリゾットの膝に跨り、彼の閉じた唇に自身の唇を触れさせながら、私は脳裏で呟いた。
私自身のスタンド能力で引き合わせた上唇と下唇は隙間も無く密着していて、それ以上を望もうとも触れるだけしか叶わない。しかしそうする他無かった。終わるまで、罵りを聞きたくは無かったのだ。
私のスタンドは触れたものに『磁極性』を付加することが出来る――スタンドの右手で触れたものをN極に、左手で触れたものをS極に――同じ極は反発。異なる極は引き合う。
自身のスタンド能力を彼へと使うのは勿論初めてだ。頭の中で反復して事に及んだ私は、スタンドの右手で触れたシングルソファをN極を、左手で触れた彼の後頭部、両肩、両肘、両手の平、両太ももに、両ふくらはぎへはS極を付加した。念には念を入れて触れたつもりだ。先に述べた通り、上唇と下唇も引き合ってもらった。
「リーダー……」
好き、なんです。今まで築き上げた信頼関係を打ち崩すことになろうと、あなたに触れたかった。無邪気な少女にも、忠実な部下にも、私はなれそうもなかった。だって私は薬を盛ったそれを飲み下すその喉仏にだって、口付けたいと目を離せなかったのだから。
リーダの胸板に手を置いてもう一度、二度と唇を合わせる。顔を離して見た彼は眉根を寄せ、その双眸を細めて私を見つめていた。その視線から逃れるように顔を背け、彼の膝上から退いた。勿論、事が終わったわけではない。キスで終われるほどお子様ではないのだから。
私がスタンドを使う隙を生むために盛った薬には、催淫効果も含まれていた。
リゾットの前へと跪き、布を押し上げる彼自身を一度それ越しに撫で、窮屈なそこから開放する。その間も視線は感じたが、返すことは出来なかった。
経験が無いわけでも無いその行為。さらに愛しい人へのそれに抵抗は一切無く、彼の唇へしたように顔を寄せて口付けをした。
一度根元から先へと舌を這わせ、キスをするように先端へと何度か触れる。唇で柔らかく挟み、舌先で割り開くかの様にぐりぐりと押すと、ソファと引き合わせた彼の太ももが震えた。
「っ……!」
頭上ではリゾットの熱の篭った声が、閉じられた唇のため鼻から抜ける。それに自身の体温が上がるのを感じ、また同時に下腹部へと甘い疼きも感じる。
口での奉仕に手も加え、先端から染み出る液を軽い音と共に吸い取った。口内へと広がる苦味には多少眉を寄せてしまったが、行為を依然として続ける私にリゾット自身は正直な反応を見せてくれる。
先端への口付けと共に顔を離して、まじまじと見たそれは私自身の唾液と彼の先走りで濡れ、またそれが私の情欲を誘うことになった。
上着、スカートはそのままに下着だけ脱ぎさった自身の気は急いている。
反り勃つ彼自身に触れぬように膝へと跨り、熱い吐息を漏らす私。合わぬよう逸らし続けていた視線を彼へと向けると、その双眸に確かに熱を秘めていて私は、浅ましく疼いてしまう。
触れた自分のそこは既に濡れそぼっていた。彼へと手と口で奉仕していて、自身には一切触れていないというのに。
「っふ、……ぁッ」
右腕と上半身はリゾットの胸へと縋り付き、左手を添えたそれへと腰を落としたが、あまりの熱と質量に声が耐え切れず漏れてしまうし、根元まで埋め入れることが出来ない。幾ら濡れていたからといって慣らすこともなく易々と呑み込めるほど、慣れてはいない。それでも自身の片手で口を覆い、吐息を隠すようにして少しずつ腰を沈め切った。
「……んッ」
あつい。自身の中に感じるそれに受け容れたそこから蜜がさらに溢れ出すのを感じる。知らず知らず内壁がうねり、リゾットを銜え込む。触れた彼の肌の熱に、私はより一層の熱に浮かされる。
本能のまま一心不乱に腰を動かせば、自身で動きながらも抑えきれない声が幾度と無く漏れる。時より自身の良い所を掠め思わず腰の動きを抑えてしまうが、中で脈打つ彼自身と熱に浮かされたようなリゾットの吐息に、性急さを取り戻す。独り善がりだというのに、中に感じる熱に勘違いをしてしまいそうだ。
「ぅ、んっ……! ふッ……あっ!」
「ッ」
自身の腰ががくがくと震えて、リゾットを締め付ける力を強め間隔を狭めている。思考回路が滲んでいくような感覚に、限界を覚え始める身体も構わず動きを早めた。
あまりの快感に達する前に腰の動きを止めそうになるがその動きの途中、偶然にも掠めた自身の良い所。不意打ちを食らったようなそれは、私には耐え切れなかった。
「リィっ、ダーッ…………!」
達した私の締め付けに、中で脈打ちじんわりと広がる熱を感じたが、私の意識は束の間飛んだ。
達して意識が瞬きの間、飛んだ。今まで、こんな場面でスタンド能力を使用したことがなかったので知りもしなかったのだが、達した瞬間はスタンドを解除してしまうらしかった。私の力量不足かもしれないが。
それが何を意味するかなんて、白に染まる脳裏で考えるなんて無理で、脱力したまま寄りかかっていた自身の身体に手が添えられたその瞬間もスタンドを解除してしまったことには気が付けなかった。
「っあ」
腰へと回された腕が私の上体を引き上げ、それにより私の腰が浮かされる。その動作で埋まったままだったそれがずるりと抜ける感覚に、図らずとも声が漏れ出た。達したばかりの身体は、抜き出すという行為にも反応を示してしまう。引き上げられ感じたまま伏目の私と、リゾットの目がばっちりと合った。私はそこで漸く彼を自由にしてしまったことに気付いた。
「……」
「ッ」
スタンドを使えるような精神状態でもない私を捕らえたままリゾットは立ち上がった。その手で直接、或いは彼のスタンド能力によって襲い来るであろう衝撃に、瞼を固く閉じる私。
背中へと走った衝撃とその際に響いた軋みが、床に投げ捨てられると思っていた私の瞼を押し上げた。数歩進んだ先で放り投げられるように押し付けられたのは、彼のベットだ。私の目は自身の首へと伸びてくる彼の手を捕らえている。
ぼろぼろと涙を零す私。それは先程までの独り善がりな行為の為か、彼によって与えられる死の為か。再び固く閉じた瞼に押し出されたさらに涙はシーツへと零れた。
「……酷い表情をしているな」
指先で頚動脈をなぞられ私はびくりと身体を震わせ薄く瞼を開けた。私を見下ろす双眸。何時の間にかシーツへは二人分の体重が沈み、私の首へと手を添えているリゾットは私の身体を跨ぎ、真上から呟きのような言葉を落としてきた。
「リーダーっ」
私の発したそれは悲痛な懇願のようだ。頚動脈へと触れていた彼の指先に軽く力が加わる。見上げるリゾットは眉根を寄せて依然として私を見下ろしたままだ。
「……リゾットだ」
寄せられた眉のまま小さく開いた口から発したそれは彼自身の名前だった。私にはそれは難解で、言葉も返せず身動ぎ一つも出来ないまま彼を見上げるばかり。
「あれほど積極的なことが出来て、俺の名前を呼ぶことは出来ないのか?」
「……りっ、リゾット」
見下ろす彼の視線に、引き攣る喉でやっとの思いで名を口にした。寄せた眉根を緩ませ、そのままに首へと寄せられた彼の顔に息を呑む。噛み千切られる! と、強張らせた身体は、噛み千切るどころかただ唇で触れるだけのそれに呆気に取られた。自身の口からは何とも情けのない嬌声が漏れる。
「っひ、一思いに殺してくださいッ!」
じわりじわりと回る毒のようだ。一思いに刺し殺してくれとばかりに声を荒げると、私の首へと唇を寄せていたリゾットが顔を上げた。怪訝な表情で。
「先程からどうも思い違いをしている気がするんだが。……お前は俺に好意を寄せている。これは間違いないか?」
「え?……ぁ、はい」
「そうか、思い違いは無いようだ。…………だったら問題は無いな」
呆気に取られる私の唇に己のものを押し当てた後、リゾットは問題は無いと言ったが私には大有りだ。意味が分からない。口を開いて言葉を吐くつもりが、未だ殆ど離れていない距離にあった唇がまた合わさり、今度は舌を絡められた。行為の余韻の残る身体の熱が急速に上昇していく。
酸素を欲して無意識にリゾットを押し返せば、どこか名残惜しそうにその唇と彼が離れた。
乱れた息のままに叫んだ。
「ッ私を殺さないんですか!」
「…………何故?」
「何故って、私……リーダーを襲った、んですよ……?」
「あぁ、先手を取られたな」
「……は?」
「メンバー全員を任務へ出し払って尚且つ、こんな時間にお前を呼び出したんだ。酒を飲み合うだけ。……そんなわけが無いだろう?」
未だに動作の鈍い脳でも、漸く自体が飲み込め始めた。どうやら私は死を思うにはまだ早いようだ。
今度は違う意味でぼろぼろと涙が零れた。
「……好きです。好きなんですッ!」
「そうか。俺は愛している。……だから泣き止んでくれないか」
襲うにしろ、襲われるにしろ、俺はお前を泣かせてしまうようだ。と私の瞼に口付けていう彼に涙がぽろりと零れてまたシーツへと一つ染みを増やしていた。
肌蹴た胸元に唇を寄せるリゾットに思わず瞼を固く閉じると、感覚はより鮮明になり、ただ唇と舌先で突付くそれさえにさえ酷く感じてしまう。追い立てるように肌を吸い上げられれば、小さな嬌声が自身の喉から漏れてしまった。
薄っすらと目を開けると、鎖骨辺りへと出来た鬱血の痕を満足そうに見下ろしているリゾットが映り、自分は彼以上のことをしていたというのに妙に気恥ずかしくなり顔を彼から背けてしまう。
手早く取り払われる私の衣服に、殆ど乱れを見せていないリゾットの衣服。なんだか悔しい気もするが、そんな余裕も肌の上を伝う彼の掌に直ぐに奪われてしまった。
「…………充分だな」
片方の膝裏を抱え上げられたことでリゾットへと晒されたそこからは、自身の液が溢れて彼の言葉通り充分に濡れているのが自分でも想像出来た。良く考えたら、彼が出したそれも混じっているのではないかと思う。
入り口を熱いそれで一度撫でるように擦った後、リゾットは一気に奥へと貫いた。
「ぁあああッ!」
「ッは……」
私の片膝はリゾットの肩へと抱え上げられ、それによってより密接する肌に、深く深く奥へと沈む。
一度達しているというのに遠慮も無い腰の動きに翻弄され、私は彼の下で身を捩りながらただ只管に喘いだ。緩急、強弱を付けられ擦り上げられる内壁に生理的な涙が零れ、見留めたリゾットがそれを嘗め取る。その後も唇は離れず、ちゅっ、ちゅっ、とリップ音を立てながら柔く目尻や頬、唇の端に触れて次に触れた私の唇そのものへは、まるで喰らうかの様な激しさを持ち私の喘ぎ声を口内へと呑み込んだ。
「んっ、んんっ、んう、ーッ!」
リゾットと合わさった口内へと嬌声を吐き出しながら、身体がびくびくと震えもう無理だと悲鳴を上げる。限界を口で訴える事が出来無い為に彼の身体へと縋り付いた私は、より一層強く打ち付けられた腰に脚をぴんッと伸ばして達してしまった。
二度目のそれに乱した息を休める暇も私に与えないまま、リゾットは体制を変える。私の背中から覆い被さる彼はまだひくつく私の中で、熱と質量を保持している。いや、より増している……?
「……」
「やっ! ん……イッて、ない……?」
「……まだ、楽しませてくれ」
イッたばかりで敏感なそこを執拗に掻き回され、私は四つん這いの体制さえ保つことが出来ず、上半身をシーツへと沈めてしまう。彼へと尻を突き出す形になった私の腰をがっしりと掴み、本能のままに腰を振るリゾットに私は自身の腕に顔を埋めて、気持ちとは裏腹に快楽の為いやいやと首を振る。
この体制は深過ぎる。私には一片の余裕も無い。かと言って、リゾットにも余裕は無いのかもしれない。肌と肌の打つかる音とぬちゃぬちゃと粘着質な音が響く合間に、彼の漏らす熱を孕んだ声が私の鼓膜を刺激するのだ。
「ッ……!」
名前を呼ばれて私が反応するよりも早く、首筋へと押し当てられた唇がそこを強く吸い上げた。その感覚にも喘ぎ声を零すいっぱいいっぱいの頭の何処かで、その位置は見えるのにっ! と、抗議の声を上げるもそんなもの直ぐに激しい彼の出し入れに掻き消されてしまう。
「あっ、あッ! ああっ、だめっ!」
「熱、い……」
「駄目ッ、だめ! もうっ、うぁっ……!」
「っ、……限界、か…………?」
私は自身の腕に眉間を擦り付けながら必死にそうだ限界だと訴える。元より激しい出し入れをそれまで以上に激しく。打ち付けも強く深くされて、私は戦慄く腰のままに最後の嬌声を上げた。
「リゾットッ、ふっ……ぅ、ダメっ!! ぁあッッ!」
「くッ…………っ……!」
脈打ちもっとも深い所で吐き出されるリゾットの熱を感じながら、迎えた絶頂に私は意識を飛ばした。
「や、うまくいった?」
私が早まったことをしてしまったあれから数日後、アジトのキッチンでカッフェを淹れている私に背後から声を掛けてきたのはメローネだ。にやにやと何とも不快な笑みを隠すことも無いこの男、あの日のあれにまったくもって無関係というわけでもないのだ。
あの日用いた薬。実は、というか察することが容易に出来るだろうがあの薬は、メローネ経由で手に入れた物である。無料ではあるが無償ではない。対価に薬の用途を事細かに教えろと迫って来たこいつに、時間が惜しい私はしょうがなく計画を吐いたのだった。
そして冒頭の台詞である。つまり計画の成果を教えろということだ。既に取引は終えている。だとすればこいつに態々餌を与える必要なんて何一つない。
振り返っていた首を元に戻してカッフェを淹れる作業を再開した私は、無意識に自身の首を覆うスカーフを押し上げた。それを目敏く見止めたメローネが、遠慮なくそれを自身の指で引っ掴んで取り去ってしまった。
「キスマークみっけ! ベリッシモいい夜を過ごしたようで。あの薬そんなに効いた? 俺は過程を聞きたいんだがッ!」
ビンタの一つでもお見舞いしてやろうかと思い再度振り返った私の視線の先、つまりメローネの後ろに不意に現れたのは、リゾット。
「…………出所はメローネだったか」
低く唸る様に彼が言うものだから、ビクゥッと肩を飛び上がらせたのは、私とメローネだ。
「めっ、メタリカは勘弁してくれよ!」
既に先回り逃げようとしているメローネ。リゾットの視線を頂戴していてよく動けるものだ。彼は自身の両の手の平を見せながら、じりじりとキッチンを出る扉の方へと後退って行く。
「…………見逃してやろう。だが、次は無い」
リゾットのその言葉と一睨みで飛んで逃げるメローネ。今度はその目が私を射抜く。
「あ、あの」
私は生憎出口とは反対側に立っていて尚且つ遠い。本能で後退してもキッチン台へと身体を押し付けるばかりだ。私の狼狽を知ってか知らずか、彼は距離を一歩また一歩と縮めてくるではないか。
怒られる!と、瞼を固く閉じる私は何だか既視感を覚えた。そしてキッチン台とリゾットに挟まれたまま、私はそろそろと瞼を押し上げる。
彼といえば、私の身体を閉じ込めんばかりに両脇隣へと手をついて、その目で私を見下ろしているではないか。私は逃げ道がないままに身を捩った。
「」
「はっ、はい!」
呼ばれた自身の名に思わず声を上げてしまった。怒っている、のだろうか? と見上げてみればその目は私のそれと合っていないことが分かった。何だ? と思いその視線の先を考えてみれば、そこにはスカーフをずらされた為に晒された鎖骨が。そうだ、そこにはあの日付けられた痕がまだ薄っすらと残っているではないか。
「っ!」
その視線から逃れたい私なんてお構い無しに、リゾットは口唇を引き上げてどこか満足そうに笑んだ。そして両脇についた手で私の身体を捕らえ、薄まったその痕があるであろう箇所へ唇を寄せる。触れるだけではないそれに時間、場所、共に場違いな声を漏らす私は、終ぞ彼に敵わないままなのである。
熱を上げる私とは裏腹に、淹れ立てであったカッフェが冷めつつただ其処に置き去りにされていた。