Bellini
何に一つも支障をきたさず任務を終えたは夜更け、非番であったジェラートと互いに酒を満たしたグラスを傾けあっていた。その日は珍しく、というわけでもないがソルベは単独で任務に就いており、アジトの自室で暇を弄んでいたジェラートへとちょっかいをかけるつもりで彼女は彼の部屋へと足を運んでいた。それが夕方。空が橙色から薄く暗んでいく時刻だったというのに、気付けば話は花が咲き、途中からアルコールが入ってしまったのもあって、時計は二人が気付かぬままに時針を進めていた。
ワインのボトルを空けたり、互いにカクテルを作り合ったり。二人は充分な量の酒を摂取していた。ジェラートは見かけによらず酒に強い。べろべろに泥酔していてもおかしくは無い量を飲み下してなお頬をちょっと赤くしているぐらいだ。はというと滅法弱いというわけでもないが、それなりに飲んだ為に身体をゆらゆらと揺らしながら、アルコールに身を任せることを楽しんでいた。彼女はジェラート以上に頬を赤く染め、何時もより笑い声を上げる頻度を上げている。
ソファからラグの上に座り込んだのはいつだったか。はジェラートが新たに作ったカクテルを彼から受け取って、緩んだ頬のままにグラスの淵へと口付ける。とろみのある液体が彼女の喉奥へと滑り込み、口内へと桃の甘味をふんわりと広げていく。そうして混じったスパークリング・ワインの清々しさに、彼女は隣に座り込んだジェラートへと尋ねる。
「これなあに?」
「ベリーニ」
「美味しー」
「じゃァ、一口ちょーだい?」
「えー、あーげないっ!……うそうそ! どうぞー?」
ジェラートはが差し出した自身が作ったカクテルを一口分傾けた後、グラスを彼女へと返す。彼女は互いの身体がぴったりと密着し過ぎていることに気を向けてはいなかった。例えばジェラートが彼女の太股へと手を突こうが、にしてみたら固定観念、変な安心感を持っていて、彼の行動に何の一つも違和感を覚えなかったのだ。そもそも、ジェラートにはソルベという恋人がいる。その事実と、普段の彼のおちゃらける性分を思えば、大概のことはスルーしてしまう。彼女にアルコールが入っていることもあるのだけれど。
「ちょっと、ジェラートくすぐったーい!」
ジェラートがの首筋に顔を寄せて、擦り寄るかのように動いた。彼の鼻先が自身の首筋をくすぐるものだから、彼女はくすぐったいとそれから逃れるように身を捩った。彼女が取った距離の分だけ、彼もその距離を詰めて離れない。そうして彼は彼女の首筋に何度か唇で触れるのだが、その度にはくすくすと笑い声を上げて、彼女の手の内のグラスがカクテルを揺らして甘い匂いを漂わせた。ベリーニのように彼女も揺れて、夢見心地だったのだ。ジェラートが寄せた唇で肌を吸い上げてそこに痕を付けた後も、はくすぐったさに笑うだけであった。
ジェラートは自身の鼓膜を擽るの笑い声に機嫌良く目を細める。そうして、釦が幾つか開けられたブラウスから覗く彼女の鎖骨へと同じ様に唇を寄せて、吸い上げた。顔先を離して、彼は出来たばかりの痕を見て口角を吊り上げる。彼が上目で彼女の表情を窺うと、彼女はなんでもないようにグラスへと口を付けようとしていた。それを見たジェラートはふっ、と彼女の肌へと息を吹きかける。ひゃっ、と嬌声にも聞こえるものを彼女が上げて、グラスを大きく揺らした。
「冷てっ」
揺らいだグラスからはカクテルが波打って零れたようだ。ジェラートの頬をとろりとしたそれが伝い、首筋を辿って彼の襟元を汚した。彼は自身の頬に付いたそれを指の腹で拭い、さらに舌で舐め取る。そうしてからの手の内からグラスを抜き取った。勿論、彼女はアルコールを乞うように彼の腕に手をかける。ジェラートはグラスに残っていたカクテルを飲み干し、グラスを後方へと無造作に放った。硝子製のそれは床に固い音を立てて打つかったが、割れることはなかったようだ。
放られたグラスの行方を視線で辿っていたは次の瞬間呆気に取られた。気付いたらジェラートの顔が目の前にあり、鼻が擦り合わさり、互いの唇が触れ合っていたのだから。ジェラートの唇は喰らうかのように彼女の唇を求め、閉じた瞼の揺れる睫毛や彼から伝わる熱にが無意識に自身の唇を薄く開ければ、それを待っていたかのように彼の舌が彼女の口内へとするりと差し込まれた。舌同士が触れ合い、びくりと震えた彼女を確認するようにゆっくりと瞼を開いたジェラート。は近過ぎる距離で彼と視線を打つからせて、慌てたように固く瞼を閉じた。距離のないままに彼がふっと息で笑うのを彼女は感じた。カクテルの甘さが乗ったままで何度も角度を変えて絡まる舌に、酸素と意識が薄くなる感覚を彼女は覚える。生理的な涙が溜まりぽろりと頬へと零れた時に、漸く彼は彼女を解放した。
涙目でぼぅっとするの頬へと軽く口付けたジェラートは楽しそうであった。距離を置いてにんまりと笑うジェラートは、何時もの悪戯な表情の癖して潤んだ瞳や血色の好くなった頬が色っぽい。彼女は自然と彼の唇へと向けていた視線を勢い良く逸らした。ジェラートの笑い声が彼女の鼓膜を撫でる。
「どっ、どうして……! ジェラ、ートっ……ソルベ!」
吃り、そして明瞭を獲ない彼女の言葉にジェラートは離していた距離をまた詰めて、彼女の唇へと息を吹きかけながら言う。どうして? そんなの分かりきっている。愛してるからだ。
「勿論、ソルベも愛してるけど?」
「っじゃあ!」
「おいおい? 人間ってのは、一人しか愛せないわけじゃァない。勿論オレは博愛主義者でもないけどさァ。……あ、あと、オレら別に女は抱けないっつーわけじゃないんだ。ゲイじゃあないからなァ。うん? これも気付かなかったか? ソルベも、のこと好きな女として見てるけど?」
「!」
「つまり問題は無いわけだ。……よし。理解できたな? じゃあ、……続き、しようか?」
小首を傾げながら覗き込んでくるジェラートの尋ねるようなそれに、は真っ赤な顔で首を振った。縦に。ジェラートが言った通り、人間というのは一人にしか愛を捧げられないわけではないらしい。ソルベ、ジェラートと日頃仲良く連むは、二人に対し異性に対して向ける恋愛感情を抱いていた。彼等は恋人同士で、自身が寄せる思いのなんと不毛なことかと嘆いていた彼女は目の前に晒された事実に首を縦に振る選択肢しか用意されていなかったのだ。それを見たジェラートは自身の下唇をぺろりと舐めた。
羞恥と快楽が入り混じった表情で、は震える唇を必死に引き結んで声が漏れることを拒んだ。アジトには二人以外誰もいなかったのだがそれでも、与えられた快楽のままに喘ぐことは耐え切れなかったのだろう。ジェラートが上目で見た彼女のその頬は赤く、己の与える快楽に必死に嬌声を抑えようとする様は興奮材料にしかならなかった。
ジェラートは、シーツをきつく掴むの指先へと自身の指を絡めて指の腹でそこを撫でる。宥めるようなその行動も、反対の手が胸をやわく揉みしだき、熱い吐息を零す唇で胸の頂を食んで弄んでいては愛撫の一つにしかならない。彼が唇を離して見たそこはぴんと勃ち上がりまたぬらぬらと濡れていて、離したばかりの唇を再度寄せて口付けたくなるばかりだ。フッと笑った彼の吐息にさえ彼女は感じて、一糸纏わぬ身体を震わせる。
「声、聴きたいんだけど?」
「むっ、ムリ……ひゃッ!」
彼女が唇を開いた瞬間に合わせて、ジェラートはするりと彼女の肌を撫で上げた。は自身の嬌声を恥じ入て、潤んだ目のまま威嚇するようにキッと彼を睨んでみるが、ジェラートにしてみればそんなもの痛くも痒くもない。それに、普段はきっちりと衣服を着込むことによりお目にかかれない彼の肉体を、今ははっきりと目にすることが出来るとなれば彼女の熱は上がるばかりなのだ。つまり、甘い痛手を負ったのは彼女自身。ジェラートはの下唇をちろりと舐めた。彼女の唇の端や頬、目尻に唇を落としながら、その度に反応を唇で知っては楽しんでいるようだ。その間にも彼の手が自身の胸へと触れてくるものだからには余裕が無く、抑え切れない熱い吐息をふっふっと短く漏らし続けた。
ジェラートの手が肌表面を滑り徐々に下っていくのには顔を背けて、その首筋を彼の目前へと晒した。行為に薄っすらと紅く染まった彼女の首筋に、彼は惹き寄せられるかのように唇を当て幾つめかの痕を残す。
「ぅ、……ぁッ」
「可愛い……」
彼の右手が自身の脚の付け根を撫でたことで、彼女は呼吸の合間に悩ましげな声を漏らした。逸らしていた顔は彼の手によって正面へと正され、噛み付くような口付けの合間に滑り込んだ彼の手が彼女の敏感な部分を擦り上げる。の嬌声はジェラートの口内へと篭ったが中から溢れる液を掻き出して陰核を弾き上げるその水音は、淫猥に室内へと響き渡った。彼女は彼から与えられる刺激に耐え切れないとばかりにその身体へと縋りつく。その爪先が彼の肌を掠めて赤い線を一線描いたがジェラートが手を休めることはなく、は与えられる刺激に涙を零した。唇を離してそれを舐め取った彼はにんまりと彼女へと笑んでみせる。
「……あッ……やッ!」
彼女がその笑みの意味を理解したのは、ジェラートがそこへと口付けたその瞬間だった。彼は割り開いた彼女の膝の間へと潜り込み、存在を強調するようにすっかり膨張した芽を吸い上げるように唇を寄せたのだ。彼女は太股を掠める彼の髪を半ば無意識に掴んでその行動を阻止しようとするが、震えて力の入らない指先ではなんの効力も持たない。はちゅうちゅうと吸い上げられる度に仰け反らせた首とビクつく身体で喘ぎ声を上げた。ジェラートは蜜を零し続けるの膣内へと舌先さえも差し入れ、内壁を刺激しながら彼女の反応を観察して目を細める。抜き差しや掻き回すそれに、瞼を固く閉じて感じる彼女の喘ぎ声の艶は一層増す。舌先を抜いたそこはヒクつき挿入を乞うていた。ジェラートは態々吐息が粘膜へとかかる距離から、彼女へと焦れったく尋ねる。
「、どうして欲しい?」
「っそんなところで、聞かないで……ッ!」
濡れそぼったそこに彼の熱い吐息がかかり、それすら甘い愛撫に変わるものだから堪らない。
ジェラートは覆い被さるように彼女を見下ろし、いやいやと首を振るその表情に酷く興奮した。
「うっわ、もうっ……! 可愛いけどさ、そんなに誘惑しないでくれよ」
「んっ……ッふ……、あッ!」
膣内へと潜り込んだジェラートの指先は、彼女のうねる膣壁の感触を楽しむかのようにゆっくりじっくりとそこを擦り撫でる。もどかしい感覚には太股を摺り寄せる。そうすれば間に差し入れている彼の手にそのもどかしさが伝わったようで、ジェラートが彼女の耳元で囁く様に低く小さく言うのだ。
「もっと?」
「う、んあぁッ……! もっ、いじわるッ……!」
「ふーん、意地悪かァ」
「! やッ! いゃッ! ンッ! あぁ…! あッ、やッ!」
口角を吊り上げたジェラートは差し込む指の本数を増やし、ばらばらと彼女の中を掻き乱した。昇り詰めるための快楽を欲していたというに、の口はいやだと言う。勿論、それが本心から来るものではないことを彼は重々承知していて、執拗に彼女の悦い箇所を攻め立てていた。そうしてその合間に陰核を押し潰すように擦り上げられたは息も絶え絶えに喘ぎながら、下腹部をぴくぴくと痙攣させて達してしまった。瞬間詰めた様な呼吸の後に熱く短い吐息を吐き出しながら、彼女は荒立った波を収めようと必死に酸素を求めた。
ジェラートは己の指をきゅうきゅうと締め付ける膣から抜き出し、の下唇を自身の上唇と下唇で食んだ。名残惜しそうに離れた彼の唇を彼女が視線で追うと、その唇は孤を描く。ジェラートは彼女の膝裏を抱えた。そして彼女は未だ疼きの治まらないそこに宛がわれた熱に、目を見開いて声を漏らした。
「やッ! まってぇ……!」
「待てると、思う?」
「ッぁう! や、だぁ……おっき……ィっ」
僅かに埋められた先端を締め付けながら、彼女は苦しそうに息を漏らした。の呼吸の合間に押し入ったジェラートは、自身の雁首に感じる甘い締め付けに眉を寄せて熱い溜息を吐く。ここにきて、彼にも余裕が無くなり始めたらしい。浅く息を吐くを宥めるように彼女の唇を奪い、緩む瞬間にぐぐぅと奥へと突き進む。
「ッふ……、ぅ、…!」
「ん、全部入った」
「じぇらぁッとぉ……アっ!」
ジェラートは結合部を満足そうに見つめてその境をするりと撫でた。嬌声を上げた彼女に合わせて、そこはジェラートの陰茎をきつく締め付ける。彼は彼女へと熱い吐息を落としたかと思うと、少し引き抜いて間も空けずに強く腰を打ちつけた。
が仰け反り喘ぐのを目下に、ジェラートは彼女の反応を楽しむように態と外した場所を突き上げてみたり、不意を突くように彼女が悦んだ場所へとぐりぃと先端を押し付けた。そうしてから自身のさらなる快感も求めて、遠慮無く腰を降り始めた。
「ひッ、あぅ! んあッアッァあアッ!」
「っく、……はァッ……!」
「っふ、ぁんっ! あアッ! は、あッあん!」
時折に粘着質な水音を跳ね上げ、はジェラートを咥えこむ。二人の漏らす声と淫らな水音、互いの肌が打つかる音にベッドの軋む音が部屋に響いた。そうしてそのどれもが二人の熱を上げる要因になり、昇り詰める行為は激しさを増す。
は潤んだ自身の視界いっぱいに映るジェラートの、普段殆ど見ることの無い余裕を失った表情に下腹部へと甘く切ない疼きを感じた。
「っあ、ぁあッ! ん、ぅあっ! じぇらっとぉ、すきぃッ! あぁ……!」
「くっそッ、煽るなよ……! 唯でさえ堪んないってのにさァッ……!」
彼女の腰を抱えなおしたジェラートは、全てを打つけるかのように一層行為に没頭した。絶え間無く打ち続ける腰に、は嬌声を絶えず上げ続ける。分かり切った何かを求める様な、彼女の彼を締め付ける間隔も短くなってきた。
「もうっ、ッあ……! んあぁッ! やっ! だっ、……ッめぇ!」
「……ふ……、…っ!」
「っイッちゃう……! あぁッ、も、やッ……! ッぁああア!!」
「……ッく、…………ッ!」
二度目の絶頂を迎えたは弓なりに身体を大きく反らせ、彼女のきゅぅぅっと締まった膣腔の絞り取るかのような収縮に、ジェラートは腰を打ちつけながらも己の欲望を吐き出した。二人の熱い息が混じる。彼女は打ちつけられながらも中に広がる彼の熱に喜びを感じ、自然と笑みを零していた。
「……あァー……もいっかい、いい?」
「! それはむっ、んぅ……!」
少し申し訳なさそうに言ったジェラート。それでも身が持たないと断ろうとした彼女の言葉を、彼は己の口内へと呑み込んだ。身が持たない。持たないがそれでも、自身の鼻を抜ける声がジェラートを未だ欲していることをはぼんやりとする頭で理解して、ぼやける視界をそっと閉ざして彼の舌に自身のそれで縋った。
ぴちゃぴちゃとなる水音の合間に響いた乾いた音は、扉が開く音だ。はぎょっと目を見開き、その人物を確認しようとしたがその前に、唇を離したジェラートが吊り上げた唇で彼へと労いの言葉を投げ掛けていた。
「お帰り、ソルベ」
「……此処が楽園か」
カッと目を見開きそんなことを言ったソルベに、は場違いながらも笑ってしまった。彼女は笑ったが、直ぐにそんな場合では無くなることをその瞬間は察することが出来ないでいるのであった。くすくすと悪戯に笑うジェラートだけは、確かに分かっていたようであった。
は逆様の視界で同じ様に逆様のソルベを見た。目を見開いて言葉を零したソルベを彼女は笑い、くすくすとジェラートも笑った。任務を片付けて返って来た彼は怪我一つ、着衣の乱れ一つも無いようだ。逆様のソルベからそう情報を得たはそうして笑い声を漏らした後、ハッとなって漸く己の状況を自覚したようであった。行為の熱に朱く染まった首元を反らし、それに合わせるかのように反らした背の所為で胸、あまつさえその頂を曝け出している。いや、見様によってはまるで彼女が見せ付けているようだ。
「あの、ソルベっ、ひゃぁっ!?」
必要も無い弁明をしようと開いた彼女の口は、ソルベの名を紡いだほんの後に、彼女の意思に反して嬌声を響かせた。は涙を潤ませた目で茶々を入れた人物へと僅かに背を浮かせて視線を向けた。その行動の所為でさらに疼くというのに、それは無意識の行動であった為に仕方無い。
「ぬっ、抜いてよジェラート……」
「そのお願いは聞けないなァ」
口角をにんまりと吊り上げて悪戯に笑むジェラートの自身は、未だに彼女の中に埋まっていた。彼女は短く息を吐き出しながら意識しないようにするが、そうすればするほど彼を締め付け、またその所為で中で脈打つそれをはっきりと感じてしまう。は嬌声を漏らす自身の口を両手で覆い、固く目を閉じてその感覚をやり過ごそうとする。視界を閉ざせばより鮮明になることなど、分かりきったことであろうに。
「実は俺はもう死んでいて、似ていても現世ではない場所にいるのかとさえ思った」
「それで楽園? 馬鹿だなァソルベ」
「……可愛過ぎるだろ」
「それは同感かな」
感じて身体を震わせるを見下げたソルベがジェラートと話すことはまるで、何の変哲も無い穏やかな日常会話のようだ。それでも確かに、彼の目下に広がる光景は酷く淫猥、扇情的で、抑え殺そうとしても漏れ出てやまないらしい艶やかで色っぽいの吐息は腰にクる。視界を閉ざしている為にには分からなかったが、ソルベもまた欲情に駆られギラついた眼差しを彼女へと向けていた。それに彼等は仕事柄、事の後というのは非常に神経が昂るのだ。
「ソルベ勃ってる」
「勃たねぇ方が可笑しいだろ」
ジェラートは自身の恋人の正直な部分を笑って、それから不意打ちのように中を掻き混ぜる様に腰を動かした。ぐちっと卑猥な水音を立てた結合部を凝視しながら彼の鼓膜は彼女の嬌声に擽られる。名残惜しくもあるが、とジェラートは彼女の中に埋まっていた自身をずるりと全て抜き出して一つ吐息を落とした。引き抜く動きさえにしてみたら堪らない、覆った手の下でくぐもった喘ぎを上げる。
「ん……! っふ……!」
「、四つん這いになれる?」
口を覆う彼女自身の手の平をやわく解きながら、ジェラートは彼女へと尋ねた。潤んだ眼差しを彼へと向けるはギシッとベッドが軋んだ音に、ソルベが己の頭の方へ位置したことを察した。そうしてジェラートの言葉をぼやける頭でも理解したのだろう、赤く染まった頬のまま彼女は上体を起こして言われた通りの体制を取った。とはいっても恥じらいが無いわけではなく、あくまで形だけの四つん這いといった感じだ。捻った首でおずおずとジェラートを窺うに、目を見合わせたソルベとジェラートの二人が口角を吊り上げて笑う。自身の下唇に指を添えたジェラートが、小首を傾げた悪戯な笑みでへと言った。
「、ソルベにも気持ち悦くなってもらわなくっちゃ。ねぇ?」
正面を向いたは、自身を見下げるソルベのギラついた目と視線を打つけた。そうして乞う様に彼の名を発した。
「そるべ……」
少し舌っ足らずで尚且つちろりと覗く舌の紅さに、本能のままに噛み付くように奪いたい気持ちをぐっと抑えたソルベは、の両頬をやわく自身の両手で包み一度二度触れるように唇を重ねた。後、深く重ねたそれで情欲を誘った舌へと己のそれを絡めた。の舌はソルベから煙草の苦味を感じたが、閉じられた瞼からぽろりと涙を零したのはただただ嬉しかったからだ。自身が彼等二人を求めても構わないのだと知らされたことが。
絡ませていた舌が銀糸をひきつつ離れ、そしてそれをぷつりと途切れさせた。ほぅと悩ましい吐息を吐いたの鼓膜に、かちゃかちゃという金属音に衣擦れの音が流れ込む。前を寛げてから自身へと視線を落とすソルベに、彼女は唾を飲み込んで僅かに喉仏を上下させた。震える指先で彼女はソルベの既に反り勃ち上がったものを取り出し、それからうろたえる。手の内に感じる脈動や硬度、それとそのものに。
「……」
「!」
自身を握りこんだまま呆然とするに、ソルベは思わず声を掛けた。ハッとした彼女は小さく頭を振り、きゅっと唇を引き結んでから覚悟を決めた様な素振りを見せる。は薄っすら唇を開けながらそこへと顔を寄せ、見下げられながらぱくりと己の口内へと収めた。ぽろりと零れた涙に濡れた睫毛を震わせながら、必死に舌を使う彼女の鼻を抜けた声が寄り添うように落ちる。
「……んぅ、ッふ、……む……!? プハッ、ぁ、やッ!」
「あ、ごっめーん! でもオレって意地悪だからさァ?」
虚を衝くように未だに疼くそこへ指を擦り付けられその上陰核を押し潰されたは、喘ぎ声と共に銜え込んでいたものを口から離し喉を仰け反らせた。ふっ、ふっ、と短い息で落ち着こうとするも整わぬままに彼女は再度ソルベを咥えこむ。舌を這わせては、はむはむと必死にソルベの雁首を彼女は刺激するが、ジェラートは彼女の頭上で眉根を寄せているソルベに苦笑いを向けてからの腰へと手を添えて、彼女の体制をより己へと尻を突き出すようなものに変えた。
「んっ、……んぅ、んッ、……」
「まァ、これから巧くなればいいんじゃない?」
「!」
誰よりもソルベのことを分かっているであろうジェラートは、彼の眉根の皺の意味を瞬時に理解してそう言った。ジェラートの言葉を耳にしたは、えっ!? と、声は出さずに銜えたままソルベの顔を窺った。それに対しソルベは言い難そうにし、苦笑だけを彼女に落とした。
「んっ、……その、ごめんなさ――」
「だから、いいんだって」
「んやぁあッ! まっ、まってぇ! あっ、アッぅ……!」
口を離し謝罪を告げようとした彼女の言葉を遮るように、ジェラートは自身の先端で彼女の膣周りをなどり、の制止も聞かずに亀頭を埋めた。
「はっ、ふぅ……ッ……!」
ソルベは自身の上へと彼女が熱い吐息を落とすのをじっと見てから、徐に彼女の頭を撫でた。そうして潤んだ視界にソルベを映したは、彼の唇が、悪い。と形作るのを見た。ソルベは性急に自身をの口内へと押し込むと、旋毛辺りを撫でていた手を後頭部へと移動させ、髪ごと掻き掴んだ。それとジェラートがの膣内へと根元まで押し入ったのはほぼ同時で、彼女は目を見開きくぐもった嬌声を高く上げた。
「ッんゥ~……!!」
「くっそッ……締め付け過ぎッ!」
「……もう一度言っておく、悪い」
そしてソルベとジェラートの二人は、余裕の欠片一つも無いへと本能のままに腰を打ちつけ始めた。
「む、ンぅッ!? んッ! ふっ、ぐッ! んん……!」
喉の奥まで突かれては引き、また押し込まれる。ジュプジュプと音と泡を立てるままに腰を引こうにも後ろからも突き上げられてはどうしようも出来ず、は潤んだ目を固く閉じ熱い涙を頬へと伝わせた。
は上と下、両方の口から淫らな水音を響かせながら、張り詰めた脈打ちを粘膜で感じ取った。見上げたことで自然と上目遣いになった彼女の眼差しと視線を打つからせたソルベは、詰めた息の後にチッと小さく舌打ちを響かせる。そうして掻き掴んでいたその後ろ髪をそっと撫でたかと思うと、自身を追い立てるように一層激しく腰を振った。
「んっ! ふぅ、ッ! ぅんっッッんン~……!」
「…………ッ!」
「! っんうぅ……ッ!」
ソルベの熱い迸りを口内で受け止めたは注がれるままに飲み下そうとしたが、その合間にも腰を打つジェラートが止まりはしなかった為に上手く飲み込むことは出来なかった。の舌の上で断続的に脈打ち終えたものをソルベはずるりと彼女の口内から引き抜く。彼の不器用な指先は労わるように、彼女の頬をするりと一度撫で下ろした。
「あッ! っひ、ぁ、んぁっ、ッあ! ぁあ! だめぇええッ!!」
「ふ、……ぅ……ッ!!」
精液の混じった唾液を唇の端から垂らしながら、は甲高い声と共に身体全体を痙攣させるように昇り詰め、その締め付けにジェラートは彼女の腰を強く引寄せ、眉根を寄せて耐え切れないとばかりに彼女の中に精液をぶちまけた。
「……ぅ……ぁ……っふ……」
自身の身体を支えることすら難しいとばかりにはシーツへと身体を沈めた。四肢は未だ小刻みに震え、行為の熱に肌はしっとりと濡れて汗の粒を浮かせている。彼女の肩甲骨あたりにジェラートが唇を一つ落とした後、ソルベはの身体をシーツから引き剥がした。彼女にしたら全身が性感帯にでもなったようであった。ビクッ、ビクッ、と震える彼女の身体を引き上げたソルベは、胸の辺りにあるジェラートが先立って残していた鬱血痕に寄り添うように自身も痕を残した。吸い上げる彼の唇に、は息を詰めてソルベの頭を抱え込む。
はぁはぁと彼の髪間に熱い吐息を落とす彼女は、潤んだままにギョッと目を見開いた。
「やっ、やだぁ! もう、もうッ……!」
出したばかりだというのに既に充分な張りと質量を得たソルベのそれが、自身のそこに添えられている。彼女がしがみ付いたその腕の力を緩めて腰を落とせば根元まで一気に呑み込んでしまうだろう。はソルベの髪を掻き掴みながら許しを乞うた。
「ッ許してぇ! 何でもきくからぁ……!」
「……何でも?」
「だからぁ……ッ!!」
の言葉にぴくりとソルベが反応した。細めた目で数秒思案したソルベは、ジェラートへと視線を向けて彼と目で会話をした。にんまり、ジェラートの口角が吊り上がる。笑んだままにジェラートがの背骨を辿るように指の腹を肌へと滑らせながら、しょうがないなァと態とらしい溜息を吐いていた。
「じぇ、らぁとッ……!」
「まァ、お楽しみはまた今度ってぇ手もあるしね。ねぇソルベ?」
彼女の身体をシーツへ優しく沈め直したソルベは口内で何でも、と独り言のように呟き、の髪を一度撫でてからジェラートへと向き直っていた。ソルベが僅かに唇を吊り上げている。
「、口は災いの元だよ? まァ今度、……ね?」
思考力の低下した脳の片隅で自身の発した言葉の過ちに頭を抱え込んだだが、向けた視線に二人があまりにも穏やかな笑みを返してくれたので、それで誤魔化されたかのように頬を綻ばせて唇を開いた。
「ソルベにジェラート、……好き」
「オレらは愛してるけどな!」
「あぁ」
の今日何粒めかの涙を拭うように、ソルベとジェラートの二人が互いに彼女の両頬に唇を落とした。ぼやける視界でもはっきりと彼等の姿を映したは言い表すことの出来ない愛しさを覚え、ふふっと笑って瞼を閉じ、幸福を噛み締めた。ふわりと香る桃の香りさえも唇を撫でるように掠めたのであった。